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液状物質 - 5

5. 制作,実験
(1) ガリウム

ガリウム (Ga) は,融点が29.78℃と低い原子番号31の金属で,体温程度の温度で容易に溶融する。また,室温以下の温度で固体になる。したがって,微小重力下で作ら れた液体の造形を地上へ現物として持ち帰るための材料として期待できる。もちろん,ガリウムが宇 宙船内に出ないような工夫が必要であるが,ガリウムによる造形の持ち帰りが実現すれば,たいへんインパクトのあるものになると思われる。

このガリウムの性質を見るために,じっさいにガリウムを加熱して溶かしたり凝固させたりしてみた結果が以下の写真である。ガリウムはやや青みを帯びた金属 で,溶解すると表面に若干の膜が見ら れた。濡れ性は水銀に比べると強く,写真のようにシャーレ表面に広がるようすが見られた。

Ga

(2) イメージ作品の制作

微小重力下で作られた液体の形をそのまま地上へ持ち帰ることの意義を確認するため,光造形を用いて写真のような作品を制作した。手に持っているものは,微 小 重力下で行われた液体を回転させる実験で液体が分裂するときのようすをイメージしたものである。

Nomura


(3) 音波による変形

ガリウムを微小重力下で変形させ,そのまま固化する方法として,音波の音圧による変形が期待できる。他の方法,たとえば表面張力波で振動させて変形させ る方法や回転で分れるさせる方法では,瞬時に凝縮させる必要があるが,急速に熱を奪って固化させることは困難であると思われる。いっぽう,音圧で変形させ る方法では, 変形が持続するので,時間をかけて凝縮させることが可能である。液体の表面張力に打ち勝って音圧で液体の表面を変形させるには,液体の種類,液体のサイ ズ,変形の程度によるが,10cm 程度のものを考えると,100dB以上のレベルの音圧が必要である。これはかなり強い音になる。

変形させるさい,容器の中の空気を音で振動させ,音圧が弱い「節」の部分に液体を集めさせることになる。したがって,どのような共鳴パターンを使うかが重 要になる。いわゆる一次元的な振動パターンでは液体が平たくなるだけで面白い変形が期待できない。円柱,直方体などの形状の容器を用意し,音の周波数を変 えていくつかのパターンの空気振動を作ることで,より興味ある形に変形させることができる。

地上では,重力が障害になって,このような実験を行うことがむずかしいので,重力の影響を受けにくい軽い材料(発泡スチロールの粉末など)を用いて地上で 疑似実験することを検討中である。

発泡スチロールの小球の塊を音で変形させる造形は,微小重力下で行うとたいへん興味深いと思われる。
できた形をそのまま地上へ持ち帰ることはできないが,液体の変形のときのよう な強い音を必要としないので,宇宙飛行士が気軽に音で造形を楽しむための道具となることも期待できる。

CG
CG による予想図

(4) 表面張力波による造形

大がかりな装置を必要としない液体の造形として期待できるもうひとつの方法が,表面張力波による液体の変形である。微小重力下では,表面張力が復元力とな る波,すなわち表面張力波が支配的になる。地上ではごく短い波長の波を除いて重力による表面波が支配的であるが,微小重力下では長い波長の表面張力波が可 能 ある。しかも,長波長の表面張力波は周波数が低いので,ゆったりと波打つ液体の球や,共鳴によってゆっくりと変形する液体を観察することができる。変形は 振動を伴うので,固化 して持ち帰ることは困難であるが,水などの容易に手に入る液体を使えば,宇宙飛行士が気軽に楽しめる道具となりうると思われる。液体を保持する方法として は,ループによる方法が考えられる。このループを任意の方向にいろいろな周期で振動させることによって,液体の表面に表面張力波を発生させ,液体を共鳴さ せるわけである。

地上実験をするためには,重力の効果を弱めなければならない。重力による表面波を抑え,なおかつ重力による変形や落下を防ぐために,小さな(1cm以 下の)液滴を用いる方法が考えられる。しかし,サイズを小さくするとたしかに 表面張力が支配的にはなるが,液体の慣性がほとんど効かなくなるので,表面張力波によって液体が複雑に変形することはあまり期待できないと思われる。ま た,周波数が高い振動が発生するので,目で見て楽しむこともむずかしい。

地上で擬似的な実験をするためには,密度がほぼ等しく混ざり合わない2種類の液体の利用が有効であると思われる。空気の代わりに別の液体でまわりを包ん で液体が下へ行かないように保持するわけである。どのような液体の組み合わせが有効か,検討中である。


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